「ただいま~」
玄関のドアを閉めた。靴を脱ぎ、玄関の明かりを点けた。
廊下の先のドアから「おかえりなさい」と阿依の声が聞こえた。
リビングのドアを開けた。
「案外早かったね」
テレビを見ていた阿依が振り向いた。俺はリュックを床に置いた。
「そんなに早かったか?」
「うん」
俺は座って、壁に背もたれをついた。
「いつの間にか寝てたみたいで、それで警備員に見つかっちゃってさ。それで帰ってきたんだけどね。後、なんかスマホが変なんだよ」
「へぇ~。スマホは壊れちゃったんじゃないの?」
ポケットからスマホを取り出し、床に投げた。
「ご飯は?」
「これからだよ」
「てか、何だよニヤニヤして。気持ちわりい」
なんだ。まだご飯作ってないのか。俺は天を仰いだ。
あれは夢だったのか。何だったのか。でも、感触は残っている。
「ただいま~」
女性の声だ。誰だ? 阿依の友達か?
「友達か? 今日来るって言ってたっけ?」
おいおい俺は疲れてるんだぞ? 頼むぜ全く。
「何寝ぼけたこと言ってるんだか」
阿依はあきれ顔で俺を見た。
「はぁ?」
俺は意味が分からなかった。ドアがガチャッと開いた。
「ごめん。ちょっと遅くなっちゃった。あっ!? お兄ちゃんもう帰ってたんだ」
女性はそう言うと、カバンを置いて、俺の隣に座った。
はぁ? お兄ちゃん? 誰だ!?
「えっと? どちら様でしたっけ?」
俺は女性の顔を見た。女性はキョトンとしている。
「お兄ちゃん頭おかしくなった?」
阿依が俺を見た。
「あ~。えーっと……」
誰だ。誰だ。誰だ? あー。誰だ!?
「うーん。えーー。……ま・さ・か……」
まさか。まさかだよな。
「さ・く・や?」
俺は女性を指さした。女性は笑顔になった。
「そうだよ」
咲耶は言った。
「ええええええっ!」
俺は後ずさりした。確かに面影はある。
「どうしたんこの馬鹿?」
阿依は俺を指さして笑っていた。
「ちょっと待てよ? ちょっと待ってくれ」
俺は胡坐をかいて考えた。つまり。そういう事だよな。
俺は立ち上がった。
「いいか? 俺の知っている咲耶っていう女の子はこのくらいの女の子だ」
俺はジェスチャーをして説明した。
「うん」
咲耶頷いた。
「ところがどうした? 咲耶は……こんなに大きくなって……」
腰が砕けそうだった。足がガクガクしている。
「つまり。つまりだ。そういう事か!?」
「そういう事なんじゃない?」
阿依が笑って言った。咲耶が立ち上がった。
「私はあの時、お兄ちゃん達に助けられた。今でも忘れないよ」
咲耶はそう言うと、俺を抱きしめた。
「ちょっ。ちょっと」
俺はどうしていいかわからず、手をバタバタさせた。
「もうその辺にしときなって」
阿依は笑いを堪え切れない感じだった。咲耶はごめんと言うと、俺から離れた。
俺はその場で仰向けに倒れ込んだ。白い天井が見える。
俺はやっぱり過去に行っていた。やっぱり過去に行っていたんだ。
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