第5章 44話 ただいま 【時の輪廻 】

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「ただいま~」

 

 玄関のドアを閉めた。靴を脱ぎ、玄関の明かりを点けた。

 

 廊下の先のドアから「おかえりなさい」と阿依の声が聞こえた。

 

 リビングのドアを開けた。

 

「案外早かったね」

 

 テレビを見ていた阿依が振り向いた。俺はリュックを床に置いた。

 

「そんなに早かったか?」

 

「うん」

 

 俺は座って、壁に背もたれをついた。

 

「いつの間にか寝てたみたいで、それで警備員に見つかっちゃってさ。それで帰ってきたんだけどね。後、なんかスマホが変なんだよ」

 

「へぇ~。スマホは壊れちゃったんじゃないの?」

 

 ポケットからスマホを取り出し、床に投げた。

 

「ご飯は?」

 

「これからだよ」

 

「てか、何だよニヤニヤして。気持ちわりい」

 

 なんだ。まだご飯作ってないのか。俺は天を仰いだ。

 

 あれは夢だったのか。何だったのか。でも、感触は残っている。

 

「ただいま~」

 

 女性の声だ。誰だ? 阿依の友達か?

 

「友達か? 今日来るって言ってたっけ?」

 

 おいおい俺は疲れてるんだぞ? 頼むぜ全く。

 

「何寝ぼけたこと言ってるんだか」

 

 阿依はあきれ顔で俺を見た。

 

「はぁ?」

 

 俺は意味が分からなかった。ドアがガチャッと開いた。

 

「ごめん。ちょっと遅くなっちゃった。あっ!? お兄ちゃんもう帰ってたんだ」

 

 女性はそう言うと、カバンを置いて、俺の隣に座った。

 

 はぁ? お兄ちゃん? 誰だ!?

 

「えっと? どちら様でしたっけ?」

 

 俺は女性の顔を見た。女性はキョトンとしている。

 

「お兄ちゃん頭おかしくなった?」

 

 阿依が俺を見た。

 

「あ~。えーっと……」

 

 誰だ。誰だ。誰だ? あー。誰だ!?

 

「うーん。えーー。……ま・さ・か……」

 

 まさか。まさかだよな。

 

「さ・く・や?」

 

 俺は女性を指さした。女性は笑顔になった。

 

「そうだよ」

 

 咲耶は言った。

 

「ええええええっ!」

 

 俺は後ずさりした。確かに面影はある。

 

「どうしたんこの馬鹿?」

 

 阿依は俺を指さして笑っていた。

 

「ちょっと待てよ? ちょっと待ってくれ」

 

 俺は胡坐をかいて考えた。つまり。そういう事だよな。

 

 俺は立ち上がった。

 

「いいか? 俺の知っている咲耶っていう女の子はこのくらいの女の子だ」

 

 俺はジェスチャーをして説明した。

 

「うん」

 

 咲耶頷いた。

 

「ところがどうした? 咲耶は……こんなに大きくなって……」

 

 腰が砕けそうだった。足がガクガクしている。

 

「つまり。つまりだ。そういう事か!?」

 

「そういう事なんじゃない?」

 

 阿依が笑って言った。咲耶が立ち上がった。

 

「私はあの時、お兄ちゃん達に助けられた。今でも忘れないよ」

 

 咲耶はそう言うと、俺を抱きしめた。

 

「ちょっ。ちょっと」

 

 俺はどうしていいかわからず、手をバタバタさせた。

 

「もうその辺にしときなって」

 

 阿依は笑いを堪え切れない感じだった。咲耶はごめんと言うと、俺から離れた。

 

 俺はその場で仰向けに倒れ込んだ。白い天井が見える。

 

 俺はやっぱり過去に行っていた。やっぱり過去に行っていたんだ。

 

 


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