ここはどこ?
視界がぼやけて見える。両手を着いて、上半身を起こした。
「あ、起きた?」
聞き覚えのある女性の声が聞こえる。
うっ。頭がズキズキする。痛みのする所へ手を当てると、布みたいなのが巻かれていた。
「こ、これは……」
私は、立ち上がろうとしたが、足が上手く定まらず、地面に手をついてしまった。
「だめだめ」
女性はそう言いながら、私の方へ駆け寄り、肩を抱いてくれた。
「あなた、葵ちゃんよね?」
「はい。あなたは……確か……うっ」
頭がズキっと痛む。
「大丈夫? 私は詩穂。この前はどうも。景とはうまくやってたみたいだね」
「あ、あいつは……」
「だめだめ、動かないで」
詩穂は私の手を握った。
「葵ちゃん、あなた頭を打っていたみたいで、気を失っていたのよ」
「そ、そうだったんですか」
詩穂は私の手を離し、リュックサックから、ペットボトルを取り出した。
「これ飲んでいいよ」
そう言うと、私の手に置いた。
「ありがとうございます」
私は蓋を開けて、一口飲んだ。水がすぅーっと喉を通った。胃に染み渡る。
「いい、起きて急で申し訳ないんだけどね。ここにいつまでもいるわけにはいかないのよ」
「ここはどこですか?」
私は辺りを見渡した。どこかのお店だろうか。
「ここは何かの料理屋さんみたいだけど、たまたま開いてたから勝手に入っちゃったの」
詩穂は笑っている。
「ま、それはいいとして、どうやら津波が発生したらしいの」
「津波?」
「そう。どうやら、その津波は想像を超えているらしくて」
「想像を超えている?」
「どうやら、千葉県の半分が地震によって沈んだという話。山という山がなくなり、遮るものがなく、東京を全て飲み込む程らしい」
「らしいって」
私は納得いかなかった。
「私はこれで確認したから」
詩穂はスマホを取り出した。
「これは衛星回線を利用しているから、日本の回線が死んでも、使えるの。それで絵理ちゃん。ああ、透哉君の友達と連絡を取って確認したってわけ」
私は頷くことしか出来なかった。とりあえず、外部に連絡が取れるという事らしい。
「そういう事だから、早く高い所まで逃げなくちゃ行けなくて」
詩穂は続けた。
「葵ちゃん。後5分経ったら、ここを出るから」
「わ、わかりました」
動くなって言ったり、ここを出るって言ったり、全くもって忙しいこと。
津波が東京を飲み込むとか、千葉の半分が沈んだとか、にわか信じられないけど。透哉君は無事だろうか。なんで私は勝手に一人で行っちゃったんだろう。ほんとうに馬鹿だな私は。
溢れそうな涙を堪えて、立ち上がった。
「詩穂さん。行きましょう」
詩穂は驚いたような顔で私を見た。
「まだ、時間あるけど」
「早い方がいいでしょ? 津波は待ってくれないもの」
「そ、そうね。それじゃ行きましょう」
詩穂はそう言うと、お店のドアを開けて、外へ出た。私も詩穂の後を追った。回線さえ復活すれば、必ず透哉君に会える。それまで生きなきゃいけない。
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