第5章 37話 津波は待ってくれないもの 【時の輪廻 】

スポンサーリンク

 ここはどこ?

 

 視界がぼやけて見える。両手を着いて、上半身を起こした。

 

「あ、起きた?」

 

 聞き覚えのある女性の声が聞こえる。

 

 うっ。頭がズキズキする。痛みのする所へ手を当てると、布みたいなのが巻かれていた。

 

「こ、これは……」

 

 私は、立ち上がろうとしたが、足が上手く定まらず、地面に手をついてしまった。

 

「だめだめ」

 

 女性はそう言いながら、私の方へ駆け寄り、肩を抱いてくれた。

 

「あなた、葵ちゃんよね?」

 

「はい。あなたは……確か……うっ」

 

 頭がズキっと痛む。

 

「大丈夫? 私は詩穂。この前はどうも。景とはうまくやってたみたいだね」

 

「あ、あいつは……」

 

「だめだめ、動かないで」

 

 詩穂は私の手を握った。

 

「葵ちゃん、あなた頭を打っていたみたいで、気を失っていたのよ」

 

「そ、そうだったんですか」

 

 詩穂は私の手を離し、リュックサックから、ペットボトルを取り出した。

 

「これ飲んでいいよ」

 

 そう言うと、私の手に置いた。

 

「ありがとうございます」

 

 私は蓋を開けて、一口飲んだ。水がすぅーっと喉を通った。胃に染み渡る。

 

「いい、起きて急で申し訳ないんだけどね。ここにいつまでもいるわけにはいかないのよ」

 

「ここはどこですか?」

 

 私は辺りを見渡した。どこかのお店だろうか。

 

「ここは何かの料理屋さんみたいだけど、たまたま開いてたから勝手に入っちゃったの」

 

 詩穂は笑っている。

 

「ま、それはいいとして、どうやら津波が発生したらしいの」

 

「津波?」

 

「そう。どうやら、その津波は想像を超えているらしくて」

 

「想像を超えている?」

 

「どうやら、千葉県の半分が地震によって沈んだという話。山という山がなくなり、遮るものがなく、東京を全て飲み込む程らしい」

 

「らしいって」

 

 私は納得いかなかった。

 

「私はこれで確認したから」

 

 詩穂はスマホを取り出した。

 

「これは衛星回線を利用しているから、日本の回線が死んでも、使えるの。それで絵理ちゃん。ああ、透哉君の友達と連絡を取って確認したってわけ」

 

 私は頷くことしか出来なかった。とりあえず、外部に連絡が取れるという事らしい。

 

「そういう事だから、早く高い所まで逃げなくちゃ行けなくて」

 

 詩穂は続けた。

 

「葵ちゃん。後5分経ったら、ここを出るから」

 

「わ、わかりました」

 

 動くなって言ったり、ここを出るって言ったり、全くもって忙しいこと。

 

 津波が東京を飲み込むとか、千葉の半分が沈んだとか、にわか信じられないけど。透哉君は無事だろうか。なんで私は勝手に一人で行っちゃったんだろう。ほんとうに馬鹿だな私は。

 

 溢れそうな涙を堪えて、立ち上がった。

 

「詩穂さん。行きましょう」

 

 詩穂は驚いたような顔で私を見た。

 

「まだ、時間あるけど」

 

「早い方がいいでしょ? 津波は待ってくれないもの」

 

「そ、そうね。それじゃ行きましょう」

 

 詩穂はそう言うと、お店のドアを開けて、外へ出た。私も詩穂の後を追った。回線さえ復活すれば、必ず透哉君に会える。それまで生きなきゃいけない。

 

 


人気ブログランキングへ

cont_access.php?citi_cont_id=608465892&s

ツギクルバナー

コメント

タイトルとURLをコピーしました